
不動産投資をしていくと、「いつ法人を作るべきか?」という疑問にぶつかる方が多くいらっしゃいます。
最初は個人で始めたけれど、税金が増えてきたり、次の物件をどう買うか考えるようになってから、「法人化」という選択肢が浮かぶもの。
そこで今回は、どんなタイミングであれば、不動産投資の資産管理法人を作った方がいいのかについて解説します。
年収や不動産の収入に応じて、タイミングは変わります。

株式会社Vision Bridge 専務取締役 /COO
不動産コンサルタント
東 将吾(Higashi Shogo)
大学卒業後、新卒で東証一部上場企業の商品企画、マーケティング職を経験。その後、大手出版社にて企画営業に従事する。2017年に売買仲介をメイン事業とする不動産会社に入社し、賃貸管理事業部の責任者としてゼロスタートから投資家100名超、約2,000戸の物件運営に携わる。その後同社執行役員に昇格し、複数の新規事業を牽引。IT×不動産、企業DXを推し進める。 2022年に株式会社Vision Bridgeを設立し専務取締役に就任。
また、法人を作ると何が良くて、何に注意すべきかについても、不動産投資のプロが分かりやすく解説いたします。
【結論】課税所得900万円超または不動産所得330万円超なら法人化を検討しよう

まず、はっきりした基準をお伝えします。
課税所得が900万円を超えている方、または不動産からの収入が年間で330万円を超えていて、それを本業としている方は、法人を作ることを前向きに考えていい段階です。
どうしてこの金額が目安になるかというと、個人で払う税金が高くなりすぎてしまうからです。
税金は、稼ぎが増えるほど高くなっていきます。
たとえば、個人で不動産収入や給与所得を合わせた課税所得が900万円を超えると、その方の所得に対して所得税と住民税を合わせて最大43%の税率がかかることがあります。
つまり、課税所得が900万円を超えた状態で、個人でさらに100万円多く稼いだとしても、そのうち43万円が税金として引かれ、手元に残るのは57万円程度になってしまうのです。

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東 将吾
一方、法人で同じくらい稼いでも、税率はおおよそ23%前後で済みます。
この差は20%もあります。
差額としては大きいです。
だから、ある程度まで不動産で稼げるようになったら、法人化を考えたほうが良いと言えます。
資産管理法人を作るべき2つのタイミングを深堀り

資産管理法人を作るべきかどうかは、収入状況や保有物件の収益性によって異なります。
はっきりと法人化にGOサインを出すべきタイミングは、主に以下の2つです。
- 年収(課税所得)900万円超のサラリーマンで物件が黒字のタイミング
- 専業大家で不動産所得が330万円以上のタイミング
各タイミングについて、詳しく見ていきましょう。
年収(課税所得)900万円超のサラリーマンで物件が黒字のタイミング
課税所得というのは、さまざまな控除(家族分や保険など)を引いた後に残る「実際に税金がかかる所得」のことです。
これが900万円を超えているなら、税金の負担が33%程度にふくれ上がっているはずです。
たとえば、会社の給料と不動産収入をあわせた課税所得が1000万円ある場合、年間で40万円以上の税金の差が出ることがあります。
個人でこれだけの税金を払っているなら、法人化したほうが節税になる可能性が高いのです。

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税金の差が大きくなっても、何年も気づかずに個人のまま投資を続けていると、数百万円単位で損をしてしまうこともあります。
専業大家で不動産所得が330万円以上のタイミング
会社を辞めて不動産収入だけで生活している場合、「不動産所得」が330万円を超えたタイミングが、法人化の検討をすべき時期です。
不動産所得とは、生活費や経費などを差し引いたあとの純粋なもうけの金額のこと。
たとえば、年間家賃収入が600万円あって、管理費やローン返済、固定資産税などを引いて残ったお金が330万円くらいなら、すでに「立派な本業」です。
これだけのもうけがあるなら、法人化による節税の恩恵がはっきりと見込めます。

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専業で不動産運営をしている方ほど、個人名義のリスクや信用問題にも関わってきます。
たとえば、物件の融資を受けるとき、個人の属性(勤務先や収入)がなくなっているため、法人名義で借りたほうが通りやすくなることもあります。
法人化を先送りしてしまうと、融資のチャンスを逃したり、相続など将来の対策が遅れてしまったりと、後で取り返しがつかなくなることもあるのです。
ほか、法人化すれば、配偶者や子どもなどを役員にして、その報酬を分散させることも可能に。
たとえば、配偶者に年間103万円以下の役員報酬を支払えば、配偶者の所得税はかからず、自分の課税所得もその分減らせます。
【番外編】純資産1億円超または年間家賃収入1000万円超のタイミング
すでに多くの物件を持っている方や、家賃収入が大きくなってきた方は、税金だけでなく事業の管理面からも法人化を考えたほうが良くなります。
たとえば、物件をいくつも持っていて、時価で見た資産が1億円を超えているとか、家賃収入が月に80万円以上あり、年収にして1000万円を超えている場合、それはもう個人の趣味ではなく「事業」に近いです。
このレベルになると、税金の額も大きくなるため、少しの対策が何百万円単位の違いを生むこともあります。
もし法人を作らずに個人名義のままで進めると、節税どころか資産そのものを減らしてしまうリスクもあります。

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このくらいの規模になると、経費の管理や融資の受け方、相続の計画などもきちんと整理していかないと、トラブルが起きやすくなります。
法人にすれば、経費の使い方や事業の継続性がはっきりしてくるので、投資の拡大を考えるうえでも大きな力になります。
たとえば、法人名義で物件を管理しておくと、将来的に子どもへ引き継ぐときもスムーズ。
個人で大量の資産を持ったまま相続が発生すると、多額の税金がかかるおそれがありますが、法人にしておけば資産の評価が抑えられて、相続税も少なく済みます。
法人化は節税・相続対策としても意味がある
資産管理法人の活用は、税金だけでなく「争族」対策にもつながります。
法人で不動産を保有し、家族に役員報酬や株式を持たせておくことで、資産の分散と相続税の軽減を図ることができます。
法人化による、節税などの恩恵は以下の表の通りです。
節税の内容 | ポイント・注意点 |
---|---|
税率の差で節税 | 個人は最大55%、法人は約23%。所得が増えるほど差が広がる |
家族への給与で節税 | 家族に役員報酬を出して所得分散。実際の業務が必要 |
経費の幅が広がる | 社宅・出張手当・保険なども経費に。保険は近年制限あり |
相続対策 | 株式で資産を引き継げば、評価額が平均30%圧縮される |
たとえば、生前贈与では最大55%課税されるところを、法人からの給与なら20%程度の課税で済むこともあります。
また、資産管理法人の株式そのものを相続対象にすることで、物件ごとの所有権争いや遺産分割のトラブルも避けやすくなります。
資産管理法人の注意点・法人化を避けるべきケース

資産管理法人には注意すべき点もあり、以下の表の通りとなっています。
注意点 | 内容 |
---|---|
設立費用 | 合同会社:約15万円、株式会社:約30万円 |
維持費用 | 年間7万円〜(法人住民税)、税理士報酬 年30〜50万円 |
資産移転時の課税 | 法人から個人への資金移動で最大55%課税のリスクあり |
売却時の税率 | 個人は5年以上保有で20%、法人は一律約30%。大きな利益が出る売却時に法人化していると、税負担が重くなることがある |
経費の誤認 | 実態のない支出は税務調査で否認されることがある |
また、法人化を避けるべきケースと理由は、以下の表の通りです。
法人化を避けるべきケース | 理由・注意点 |
---|---|
物件が赤字で損益通算中 | 給与と赤字を相殺している方は、法人化すると節税効果がゼロになるから |
所得500万円以下 | 節税よりも法人の維持費のほうが高くつき、かえって損になる可能性があるから |
勤務先が副業禁止 | 登記情報で勤務先に知られるおそれがあり、懲戒対象になるリスクがあるから |

不動産コンサルタント
東 将吾
こうした費用やリスクを事前に把握しておけば、「思ったより損だった」という事態を避けられます。
節税を目的に法人を考えるなら、得になるかどうかを冷静に見極めたうえで進めることが大切です。
年収900万円、不動産所得330万円を超えたら、法人化の検討を始めよう!

この記事では、不動産投資をする中で「いつ法人を作るのが良いのか」について解説しました。

不動産コンサルタント
東 将吾
資産管理法人を作るかどうかの判断材料は、節税や相続対策といった「目的」に加えて、「今の自分がそのステージにいるか?」というタイミングの見極めがすべてです。
・年収900万円を超えたサラリーマン大家
・330万円以上の不動産所得がある専業大家
・保有物件が黒字化している
・将来的な資産承継を視野に入れている
こうした状況のいずれかに当てはまるなら、すでに資産管理法人の検討を始めるべき段階に入っているといえるでしょう。
逆に、赤字物件の保有や物件数が少ない場合は、今はまだ個人で進めた方が得策です。
焦って法人化するのではなく、「節税・相続・投資拡大」の観点で複数の要素を見極め、最も効果的なタイミングで判断しましょう。
「うちは法人化したほうが得か?」「もう少し先でもいいか?」と迷っている方は、専門家の視点から一度状況を整理してみることが大切です。
Vision Bridgeでは、不動産オーナー様の法人化タイミングや、節税と相続に関するご相談を随時お受けしています。
「誰にも相談できない」「ネットの情報がバラバラで混乱している」と感じている方は、お気軽にVision Bridgeまでお問い合わせください。
※本記事の内容は、執筆者個人の意見となります。実際の参考数値や法人化のタイミング等については、税理士等の専門家にご相談のうえ、ご自身の判断で検討してください。